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本のクソ虫野郎

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貧困の克服


貧困の克服 ―アジア発展の鍵は何か (集英社新書)貧困の克服 ―アジア発展の鍵は何か (集英社新書)
(2002/01/17)
アマルティア・セン

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アマルティア・センが、主に発展途上国が貧困から抜け出し、本当の意味で豊かになるための方法を思索した著作。

彼自身インド出身ということもあり、特にアジア諸国への言及が多く、また、センは経済だけでなく、哲学、倫理学などにも専門の幅を拡げている。そのため、単に一国の効率的な経済発展というだけでなく、人々の生活・習慣・文化レベルからの観察による、本当の意味での発展を考察する。こういった、「経済学の中に倫理学の観点を」という彼の旧来からの立場が、他の経済学者が見落としがちであった内容を盛り込み、真に達成されるべき効果的な政策について、多くを本書で語っている。

一言で言ってしまえば、センはアジア諸国の発展にとって重要なのは「人間の安全保障」であるということを言っている。人間の安全保障とは、十分に発達した民主主義の制度の下で、「人間の生存、生活、尊厳」がしっかりと守られる社会体制であるということ。我々日本に暮らす人間からすると当たり前のように聞こえるが、アジア諸国の中には、十分にこれら民主主義的環境が未だ整っていない国も少なくなく、意思的・実践的政治参加、権利の保障が必要とされている。普段の生活の中で何かしらの生命の危機に晒される心配もなく、安心して人々が暮らせる環境を制度面で整えることが著しくその国の発展に貢献する。

また、人間の安全保障とは必ずしも上記のような平和というものだけでなく、これもまた我々日本人からしたら普通のことかもしれないが、「基礎教育の普及」「経済エンタイトルメント」(人々が十分な食料などを得られる経済的能力や資格)などの事柄も含む。これらの制度・自由があればこそ、真の経済的発展が行われる。これを制度の相互補完性と言う。

このように、発展途上国政府からは、適正な公共政策によって基礎教育の確立、最低限の医療施設の整備を進め、あらゆる経済活動に不可欠な資源を広範に分かち合い、自由に利用できる環境を作る必要がある。これがその国の人間的発展に結び付き、経済発展を促す。

また政府は、突如起こり得る極度の貧困(戦争・災害によるもの、大不況によるものなど)を防止するという機能も持たなければならない。


そして著者は、そもそも民主主義には普遍的な価値があるとする。
その価値とは、

1:人間生活における自由と人々の政治参加にとって、民主主義が持つ本質的重要性

2:政府にその国家義務と説明責任を認識させるための政治的インセンティブを高める、民主主義の手段的重要性

3:価値観の形成、または、欲求、権利、及び義務などの基本的概念について理解を生み出す民主主義の構成的役割

これらの価値を持つために、民主主義の普及はその国の経済及び文明的発展を可能にする。


また、発展とは、一人当たりのGDPだけでなく、「人間の自由と尊厳がもっと拡大される」ことにも関わっている。
つまり、いくら数字上で数年間GDPが上昇したところで、人々に与えられるべき多くの権利が剥奪されており、政治参加もできず、基礎教育を初めとした公共インフラもなければ、その国は発展しているとは言い難い。


まあ、結局は、

民主主義や人間の安全保障の発展→自由の拡大→人々の潜在的能力の機能の拡大→発展

だということです。



※センのこれらの発展に関する思想は概ね正しいのではないかと考えます。日本で暮らしているとなかなかその重要性には気づきにくいものの、その国に民主主義が普及し、本書の中で人間の安全保障とか経済エンタイトルメントと呼ばれる、人として生きるための最低限のインフラ、これがなければ経済活動の最小単位である人々の教養・経済及び社会活動力が著しく損なわれ、生産だとか文化どころではなくなるためです。

例えば日本では中学までは義務教育として国民の義務として定められていますし、故に識字率も当然のようにほぼ100%ではありますが、実際に、教育を受けられないがために字の読み書きさえ不自由な人は世界中にたくさんいます。そのような人々が基礎教育によってリテラシーを持ち、安定した秩序と制度の中で活動出来れば、その国全体の経済・社会発展は多分に加速するだろうと。

また、人々に対して様々な権利的自由を寛容に認め、差別を排除することは、制度の相互補完性だとか言う前に、人間として当然なことであるわけです。余りにも当たり前のことですけど。逆に言うと、それら人間として当たり前の環境すらない国は、経済的発展にがどうのこうの、社会的発展がどうのこうのどころじゃないと。

センのこれらの主張は本来当然のことではありますが、現実を見てみると達成されていない国々もあり、それらを無視した経済学説も多く出回る状況に、改めて警鐘を鳴らすことになったと思います。
これも、別の記事で述べたように、彼が「経済学と哲学(倫理学)の橋渡し的学者」だからこそ出来たことなのかもしれません。

国民の権利と自由を守ることが、その国の社会的・経済的発展及び国家の持続にとって、必須の要素であることを、実際の国々の歴史を引き合いに出しながら、改めて詳しく解説したということが、本書及びセンの思想の素晴らしい点であると思います。


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